ピナ・バウシュが死んだことなんてだあれも知らない
カーヴァーの時もそうだった。
ピナ・バウシュが死んだっていっても、
街中の人たちが振り向くわけじゃない。
だけど僕は、
あの日受けた衝撃を今でも忘れていないのだ。
80年代の終わり、20代の僕は
ピナ・バウシュ率いるウッパダール舞踏団の
『カーネーション』を半蔵門の国立劇場で観た。
いや、観てしまったのだ。
そして、それは僕にとって表現について考える
すごく大きな出来事になってしまったのだ。
舞台一面じゅうに群生したカーネーションの上で、
男や女が素敵なダンスを踊っていた。
いや、それはダンスじゃなかった。
なんだろう、それはダンスという
カテゴリーに属する類のものではなく、
カーネーションの上で人が何かをしている、
と言ったほうが正しいかもしれない。
ピナ自身が自らを「タンツ・テアター」と呼んでいるように
それはダンスというか、演劇というか、
でも名付けてしまうと陳腐になってしまうような、
そんな舞台だったと思う。
いままで観たことがないものを
観てしまった衝撃を、いまでも僕は忘れられないのだ。
そしてその風景は、僕が心のどこかでまさに待ち望んでいた
表現だったと思う。
Danke schon. ピナ!
ピナ・バウシュ(コンテンポラリーダンスの演出家、ダンサー)
1940/7/27〜2009/6/30
2009年07月03日 芝居について